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静岡家庭裁判所沼津支部 昭和31年(家イ)7号 審判 1956年9月24日

申立人 上木アサ(仮名)

相手方 トーマス・ウェイン・ローチ(仮名)

主文

申立人と相手方との昭和三十年十月○○日○○市○区長受附にかかる婚姻届出による婚姻は無効であることを確認す。

理由

申立人は主文同旨の調停を求めその実情として申立人はアメリカ合衆国民で同国カンサス州の出身である相手方と婚姻し昭和三十年十月○○日○○市○区長にその届出をして受理されたが日本駐在アメリカ合衆国○○総領事に所定の手続をなそうとしたところその受理を左記事由により拒絶された。即ち相手方は本国においてXという妻があり同人から本国カンサス州ラベテイ地方裁判所オスウエーゴ支部に離婚訴訟を提起され昭和三十年九月○日同裁判所において「当事者間に従来存在していた婚姻関係は以後取消し離婚すべきものとする。当事者は離婚より六箇月満了以内に第三者と再婚することが出来ない」との判決言渡があつたから右六箇月の期間満了前にした申立人との前記婚姻は該判決に抵触し無効でありアメリカ合衆国としては到底これを認め得ないということであつた。申立人及び相手方は斯る再婚禁止の裁判のあつたことを知らぬため再婚差支えなしと思い前記婚姻をなしたのであり今日も依然として互に有効な婚姻を欲しておるから前記婚姻の無効確認の審判を得て該婚姻届の抹消をした上六箇月の再婚禁止期間経過の今日改めて有効な婚姻届をなさんことを期し本申立に及んだと述べた。

本件調停委員会の調停において当事者間に合意が成立し申立人と相手方との婚姻が無効であることにつき争がない。而して戸籍抄本及びアメリカ合衆国カンサス州ラベテイ地方裁判所オスウエーゴ支部判決謄本によれば申立人主張の如き婚姻届がされたこと、アメリカ合衆国において申立人主張の如き離婚判決があり右婚姻届出が該判決により命ぜられた六箇月の再婚禁止期間内にあることを認め得るので右婚姻届出による婚姻の効力について按ずると法例第十三条は婚姻成立の要件は各当事者に付き其本国法に依りて之を定むとしているので申立人については日本の法律により相手方についてはカンサス州法により夫々その婚姻成立の要件を具備しておるや否やを調査すべきであるがアメリカ合衆国の各州は斯る場合一般に婚姻の要件は婚姻挙行地の法律に従うとしておるので所謂反致法の規定である法例第二十九条により前記再婚禁止の判決は申立人と相手方との婚姻に影響なく右婚姻は我が民法の規定する婚姻の要件を欠かぬ限り有効であると一応思料されるところカンサス州一般法は「地方裁判所が与える離婚の裁判は何れも各判決毎に終局的結論的なものである。かかる離婚訴訟の当事者は双方とも離婚判決言渡の日から六箇月以内は当事者以外の如何なる者をも相手として婚姻することは非合法とされる。そして本条の規定に違反して婚姻する者は誰でも重婚の有責とされ、かかる婚姻は絶対的に無効である」と規定しておりカンサス州の住民たり市民たる者がカンサス州以外の土地において挙行した婚姻についてもその再婚禁止の効力を及ぼすと解すべきものなること知り得るので調停委員の意見を聴き本件当事者の前記合意を正当と認め家事審判法第二十三条により主文のとおり審判をする。

(家事審判官 村岡武夫)

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